鬼喰いと皇子 2
アルフォンスは自体が飲み込めず呆然としているフェルラートの背を扉に押し付け、その細い身体をより強く抱きしめた。
腕を腰に回し、後ろ手で内側から鍵を掛ける。
これで、邪魔がはいることはない。
「……兄さっ、ん……、ど…うして…!?」
「そう…だな…、どうして…か…を聞きた…い……のは僕…も同じだ…」
会話の合間に間があくのは言葉を遮る様にアルフォンスがフェルラートにキスをしているから。
積極的に舌を絡ませようとするアルフォンスを拒むようにフェルラートは腕中でもがく。
しかし薬が回った力の入らない体ではアルフォンスの拘束を振り切れず、無駄な足掻きと終わっている。
蜘蛛の巣に引っ掛かった蝶のようだとアルフォンスは思った。
「にっ…いさ…、ぁんっ…」
媚薬の効果もあってか、次第に漏れる吐息が喘ぎ声のようになってきている。
唇を首筋に移動させたアルフォンスは跡を付けないように軽く吸う。
「ふぁ……、ぁ…あっ……!」
行動の一つ一つに反応するフェルラートを前に、アルフォンスは苦笑を浮かべた。
あぁ、なんて可愛いんだろう。
惚気に似た感情を微笑みの裏側に隠してアルフォンスは思う。
もっと啼かせてみたい。
「毎晩、それも深夜の話だ」
フェルラートの耳朶に息が吹きかかる距離で。諭すような口調でアルフォンスは囁く。
「フェルラートはずっと僕を呼んでいるよね」
その言葉で呆けていたフェルラートの目の色が変わった。
秘密が暴かれた驚きと、不安と、怯えが混じった翡翠色の瞳が揺れる。
どうして兄さんがその事を知っているのだろう。
恐らく彼の脳内ではこのような自問がぐるぐるしているであろう。フェルラート。
「それが何を意味しているのか、分からないほど僕は馬鹿ではないよ」
其処まで囁いたアルフォンスは視線を下に向けた。
フェルラートのズボンのふくらみに手を伸ばす。
「どうして、僕なんだい?」
触れた瞬間、びくりとフェルラートの身体が跳ねた。
布越しとは思えないほどそこは熱を帯び、硬くなっている。
「ふふ、敏感だなぁ。フェルラートは」
アルフォンスはやんわりと中心を撫で続けた。
アルフォンスの背を抱きこんでフェルラートは快感をこらえるとするも、濡れたような甘い声ばかりが漏れる。
ちっともこらえられてはいない。
「兄さ……、や…め、……んっ!」
制止を求める声をフェルラートはあげるが、アルフォンスにはそれが制止には聞こえなかった。
喘ぐ余裕のない制止はむしろ誘っているようなもので。
その声が一層アルフォンスを煽っているとは知らずに、フェルラートは懇願する。
「……おね…が…、やっ!……あ、ふぁ……」
尤もアルフォンスは懇願されている最中にフェルラートの唇を封じてしまったけれど。
再び唇を合わせたアルフォンスはフェルラートの口中を一方的に舌でかき回した。
舌をきつく吸ってみたり、甘噛みしてみたり。
フェルラートの昂ぶりへの愛撫も忘れない。ゆっくりと探る様に撫でまわした。
「ひゃうっ!…、ん……ぁ、あぁやぁ……!」
二重の快楽を身に受けて、一層声を上げるフェルラート。
口の端から流れる涎が僅かに部屋に灯る光を反射し、とても蠱惑的だ。
「にい、ひゃぁ!……ん、……あぁん!」
「なんだい?ちゃんと言わなきゃ僕は分からないよ?」
薬が効き過ぎているのか。呂律が回らないフェルラートは辛そうに喘ぐばかりだ。
立っているのもアルフォンスに抱き支えられているからであり、現にフェルラートの膝はがくがくと小刻みに震えていた。
「それともこの反応が質問の答えだと思っていいのかな?」
行為の一つ一つを拒みながらも、戸惑い、悦び、乱れて。
快楽に負け堕ち、壊れてしまうフェルラートを想像してアルフォンスは微笑みを、欲望を深くする。
もっと、もっと啼かせたい。
「にい……っ、ぁう……!んぁあ…っ」
アルフォンスが少し腕の力を緩めると、フェルラートはずるずると力なく床にへたり込んだ。
前のめりに屈みこんだフェルラートは肩で苦しそうに息を吐いた。
目は快感に潤み、頬は上気し、唇は半開き。完全に発情しきっている。
今のフェルラートを見たら誰もがやましい気持ちに駆られるだろう。
それにしても、とアルフォンスは思う。
「此処まで催淫効果があるとは思わなかったな」
まだキスと愛撫しかしていないのにコレ、だ。
フェルラートに耐性がなさすぎたのか。はたまた、薬が強すぎたのか。
どちらにしろ、これでは話にならない。
「全く…、仕方ない弟だよ」
アルフォンスはフェルラートの前にしゃがむと、フェルラートの投げ出されていた両脚を開かせ、膝を立たせた。
そして、抱き込むようにシャツの下に手を入れて探り、慣れた手つきでベルトを外したアルフォンスはフェルラートのズボンを一気に膝まで下ろした。
其処から更に下着を下ろすつもりだったのだが…フェルラートの下着姿を見て、アルフォンスは動きを止めることになる。
「……紐?」
フェルラートが穿いていたのは、白い表面積の少ない…紐のような下着だった。
飾りという飾りはなく、腰脇二か所で蝶結びをするだけのシンプルな下着である。
可愛いデザインだが、露出が非常に高い。
俗に言う『勝負下着』という部類のものだと、アルフォンスは認識している。
そんな如何にもな下着から収まりきれないフェルラートの雄が端からはみ出していた。
下着自体は先走りの蜜によってぐっしょりと濡れて透けている。
実に官能的な光景である。
思わず呟いてしまったアルフォンスの言葉に、肩で息をしていたフェルラートの顔がカァっと一瞬で真っ赤に染まった。
自分がどんな体勢で、どんな格好なのかやっと気づいたらしい。
フェルラートは更に前屈みになり、手で昂った羞恥を隠そうとする。
「やっ、みないでっ……!」
だが、その行動をアルフォンスが許すはずもなく。
フェルラートの手を遮り、ぐいと内腿を押し、更に開かせた。
「ひゃっ!、あっ、やぁ……っ、恥ずかし……」
「隠さないで、もっと見せてよ。…フェルラート」
アルフォンスは安心させるようにキスを落とした。同時に手では下着の蝶結びを解く。
両端の紐は簡単に解けた。フェルラートの下腹部が露になる。
布地から解放されたフェルラートの雄は天突く勢いで勃あがっている。
濡れそぼったソレにアルフォンスが指を絡めると透明な液がぐちゅり、と音を立てた。
「ふあっ、ぁあっ…、やだっ」
卑猥な水音にフェルラートは嫌だと示すように首を振った。だが、身体はどんな時でも正直である。
行動とは対照的に、フェルラートの顔は快感に喘いでいた。
「すぐに気持ちよくしてあげるからね」
先端を指でなぞる様に弄っていたアルフォンスはすっかり硬くなったフェルラートのモノを直接握りこんだ。
「ひあっ!、ああぁ……」
いきなりの積極的な衝撃にフェルラートの口から嬌声が上がった。
上下に動かし、扱いてやると面白いように反応し、雄から先走りの蜜がどんどん溢れ出てくる。
蜜が潤滑油の役割を果たし、段々とその動きは早く激しくなっていく。
「あっ、あっ……やぁっ、あぅんっ!」
アルフォンスの手が動くたびに、フェルラートの腰が跳ねる。
制止を乞う様に伸ばさていた筈のフェルラートの手は、いつの間にかしがみつく様にアルフォンスへと回されていた。
「ん、あぁ、あ………っ」
「ねぇ、普段はどうやって鎮めているんだい?」
今度は指の腹で揉みしだく。柔らかい感触の先端を捏ねては鈴口へ指先を押しこんだ。
「…うぁあ!ぃあ……っ!ぁあぁっ……」
「ねぇ、どんな事を考えながらするんだ?」
何度も何度も同じ場所を。くすぐる様に、爪立てる様に。激しく、優しく。
「ねぇ、フェルラート。……全部を僕に教えてよ?」
フェルラートの全てを知りたいんだ。
もっと、もっと奥まで。
「あうっ!あっ……!あぁあっ、あっ、あっ!」
熱く脈打つ自身の昂ぶりに合わせ、フェルラートは腰を激しく揺らした。
その無意識ながらも快楽を強請る動きが嬉しくて、アルフォンスは更に強くフェルラートのサオを扱いた。
「あ…!やぁあっ……イくっ…、にいさっ、にいさん……!」
アルフォンスの手は止まらない。濡れた音と熱帯びた吐息だけが零れ続けた。
「あぁあっ!ひっ……ぃいっ!いあっ………!」
与えられ続ける愛撫に耐えきれなくなったのか。
身体を強張らせたフェルラートが身体を震わせ、大きく仰け反った。
腹の上に、開かれた股下に、アルフォンスの掌に。ぱたた、と床の上に白濁の液が迸る。
全て出し終えるまで扱いていると、痛い位に爪を立てていたフェルラートの腕がずるりとすべり落ちた。
果てたフェルラートの姿。
上半身はきっちり着込んでいるのに、下半身だけ肌蹴、乱れて。
恍惚とした放心状態を表すかのように上気で染まった頬。
白い肌の四肢はだらりと力の抜け、床の上に無造作に投げ出されている。
飛び散った白濁色と未だ快楽を求め続けている雄だけが、生々しく状況を語っていた。
誰もこれが純粋無垢な皇子の本質だとは知らない。そして信じないだろう。
アルフォンスはそっと弟を抱きしめ、宥めるように優しく背中をさする。
「愛しているよ、フェルラート」
僕だけにその淫らな姿を曝してくれ。
満足そうなアルフォンスの囁きは誰にも聞かれることなく消えていった。
好きだから汚したかった。綺麗だから滅茶苦茶にしたかった。
「……無理をさせてしまったね」
アルフォンスは、達したきり一言も喋らずぐったりと目を閉じたまま動かなくなったフェルラートの身なりを整え、ベッドへと横たわらせた。
自身はその横に腰かける。
フェルラートからはすぅすぅと整った呼吸音が聞こえた。
疲れて寝てしまったのかもしれない。
まだあどけない寝顔は子供のようで、けれど思考は立派に大人のもので。
アルフォンスは快楽に喘いでいた弟を思い出し、ギャップに一人苦笑した。
密やかな笑い声にぴくりとフェルラートの身体が震える。
起こしてしまったか。
「…ごめんね。おやすみ」
最後に滑らかな髪を掬い、一房の黄金にアルフォンスは口付けた。
どうか、よい夢を。
音一つ立てず立ち上がったアルフォンスは扉に向かおうとする。
が、引っ張られるような違和感を覚え、振り返った先には。
「フェルラート…」
シャツ裾を掴んだフェルラートは弱々しく微笑んでいた。
「兄さん……、聞いて………」
今にも消え入りそうな声でフェルラートは言ったのだった。
「僕は…兄さんの事がずっと…ずっと……すっ、好きで、あ、愛していて、一番…大切で……
誰よりも、何よりも、兄さんの事を……求めていて、えっと……」
しどろもどろの告白にアルフォンスは自身の微笑みが崩れるのが分かった。フェルラートは気付かない。
驚きと喜びと…この感情は何だろう。
「だから、普段は……兄さんならどうやってくれるだろうとか…考えて…して………」
サイドランプの灯りに照らされるフェルラートの顔が次第に真っ赤に染まっていく。
何故自分は、大好きな兄にこんな恥ずかしい事を暴露しているのだろう。
そうと思っているに違いない。小さな声は更に小さくなっていく。
しかしその話が途中で放棄される事はなく、フェルラートは問われた全てを答えた。
アルフォンスはじっと耳を傾けて全ての告白を聞いた。
「…フェルラート」
アルフォンスが声を上げたのは、フェルラートの告白から静寂があった後だった。
怒られるのではないかと身を竦めたフェルラートは布団で顔を隠す。
隠れきっていないフェルラートの髪をアルフォンスは優しく撫でてやる。
「よく答えてくれたね。欲しいものはあるかい?」
その問いの意味を察し、顔を上げたフェルラートは消え入るような声で言った。
「兄さんが……………………………………欲しい、です」
フェルラートのおねだり。
アルフォンスは再び囁いた。消え入らぬ様に、はっきりとした声音で。
「愛しているよ、フェルラート」
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