一話 真偽都市国家 1



  剣士と魔術師。
  二人組の旅人がとある国に着いたのは、今正に東の空より太陽が夜明けを告げようと昇り始めた時刻だった。
  空はまだ薄暗さを残し、ぼんやりと薄紫。次第に明るさを増す朝日。
   朝霧の粒子が光を浴び煌く中、彼らは国と国とを分け隔てる門前に立っていた。
 「此処か」
  手に持った地図で現在位置を確認する剣士。指差す所には門の印が描かれている。
 「此処だねっ♪」
  魔術師は剣士の問いを肯定するように頷く。
 「完全な夜明けまではまだ大分時間があるな…」
  朝日を見ながら剣士は呟く。幾ら上るのが早くとも、人が起きる時間まではまだ遠い。
 「そんなの気にしちゃ駄目だよ!ロー君っ♪」
  魔術師は剣士にウィンクを。そして大きく息を吸った魔術師は鶏と共に朝を告げた。
 「すみませーん!入国手続きお願いしまーす!」
  遠慮もせずに大声を上げた魔術師の頭を剣士は小突く。
  少しは遠慮しないか。


  幸いにもそれから数十分としない内に、彼らは入国手続きを受けられる事となった。
  人当たりのよい、柔和な顔をした中年男性の入国審査官。
  この審査官が門前にまで見回りに来たのだ。大層驚いた顔をされ、二人は室内に入れられた。
  普段より早く目が覚めた、と言う審査官に感謝しなければならない。この場合魔術師にも、か。
  もし来なければあとどの位待ちぼうけをする羽目になったか。考えたくも無い。
  最も、小国で在る故か。それともこの時間帯故か。室内に彼以外の人は居ない。
  朝早くだというのに審査官は嫌そうな顔一つせず、テキパキと手続きを行っていく。
  そんな合間の会話だ。
 「今、この国は東と西で対立をしているんだ」
  入国手続き用の書類を書きながらなんでもない世間話をするように審査官は言った。
 「対立中?」
  鸚鵡返しに魔術師は尋ねる。
  針金のように真っ直ぐな色素の薄い茶髪を一つに結い、まるで女のような顔の男。
  この魔術師、名をフィーリ=メ=ルーンという。
  フィーリは魔術師の象徴ともいえる長い杖を器用に手首だけでくるくると回していた。
 「あぁ、そうさ…。もう三年も前からになるかな?」
  小さな溜息。疲れたような微笑だ。
 「この国の……旅人の扱い方についての問題さ。……君たちは間違っても関わってはいけないよ」
 「…其れは俺達にも関係あることじゃないのか」
 「対立の仲裁は?国家はどうなっているんだろうね?」
  二人は口々に審査官に尋ねるも、彼は曖昧な微笑を浮かべたまま黙る。そして、言った。
 「休息を取るなら必ず東の街で休みなさい。野宿はしてはいけない。…賊が出るかもしれないから」
  身を案じた心優しい忠告だった。一瞬視線を通わせた剣士と魔術師は揃って審査員の言葉に頷く。
  それを了解と取ったのか。審査官はうんうん、と満足そうに頷きながらペンを走らせる。
  剣士、ロジェ=ミラ=クレセントは物影で溜息を吐きながら、心中で頷きに訂正を加えた。
  約束を守れるかどうかはこの魔術師に関わってくるんだが、な…。
  暫くペンが走る音のみが室内に響き、やがてそれすらも止まる。
  書類を穴が開くかと思うほど丁寧に見直した審査官は静かにペンを置く。
 「ロジェ=ミラ=クレセント。そして、フィーリ=メ=ルーン。我が国は両者の入国を許可します」
  審査官は音を立て椅子から立ち上がり、そして入国管理室の扉を勢い良く開け放った。
 「ようこそ、私たちの国へ」
  其処に見えたのはようやく全身を現した太陽と、沿線まで広がる広野。
  開かれた扉の先の国は彼らを歓迎しているのだろうか。



  それはこれからのお話。





    モドル