お菓子なphontom 4
それから、颯爽と怪盗シザンサスは夜の街へと去った
今回も彼を捕まえる事は出来なかった。被害者の女性は言う
もしかしたら彼は犯罪者ではなく伝道師なのかもしれない、と
アドニス新聞 一面より抜粋
「だってよ。伝道師ってなんのだよ、なんの」
次の日。まだ開店前の『天使の灯』で新聞を広げていた。昨日の出来事は新聞に大きく載り、世間を賑わせていた。
ヒラギが新聞をずらすと其処には調子に乗ったオーキッドがティーカップを持ちながらふんぞり返っている。
「ふふ、確かに私は伝道師かもしれないな。今度からそう名乗ってみようか。愛の伝道怪盗シザンサス。どうだい、ヒラギ君」
「お前にセンスがないことがよく分かるぞ」
辛烈なヒラギの言葉にオーキッドはははは、と楽しそうに笑った。
「しかし助かったよ、ヒラギ君。甘ったるい匂いの甘味調味料を毒と偽ればいい、だなんて普通考え付かないもんさ。全く脱帽ものだよ。
君がいなかったら私は本物を用意しなければならなかったのだからな。おっと、それこそ犯罪だ」
小瓶の中身はヒラギ御用達の甘味香料を混ぜたものだった。やけに甘い匂いもそのせいである。
リキュールやらラムやらが混ざったものだから飲んでも毒はない。全てはハッタリだったというわけだ。
元々殺すという考えはないのだから当然であるが。
「さて、今日も元気に働くとするかね」
「普段働いているのは俺だけだろうが。女を口説くな、動け、働け」
「はっはっは、ヒラギ君は厳しいなぁ」
からん、からん。扉に掛かる金色の鐘が来客を伝える。
「いらっしゃいませ」
瞬時に声音を接客用に変えたヒラギが笑顔を作る。
戸口に立っていたのは帽子を目深に被った娘。緊張しているかのように肩が上がっている。
誰も何も発さず彼女は二人の視線を浴びていたが、勇気を出したように声を上げた。優しく可愛らしい声音だった。
「あ……、開店はまだでしたか」
帽子から様子を窺う少女にヒラギは驚いた。それは今までとは別人のようなカルミアだったからだ。
人形の様な彼女でははなかった。
「いいえ、カルミア嬢。ご注文は何に致しますか?」
オーキッドは尋ねる。少女はぎこちないものの微笑を浮かべる。
「……フルーツ・タルトレット≠頂けませんか?」
変わらない、けれど少し違うモノ。微笑には微笑を添えて答えよう。
「「畏まりました」」
お茶菓子は貴女の笑顔。それ以上のものが何処にあるでしょうか
Fin.
創作同好会部誌『PUNCS』の3号に寄稿した作品。
キザったらしい、けど憎めない主人公を書きたい!という思いで生まれた怪盗話です
一部の方々にシザンサスが受け、とても喜んで頂けたのが印象的であります
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