謳えぬphontom 6
こうして、怪盗はまた一つ不可解なものを盗んでいった。
一体何が起きたのか分からなかった、と現場に居合わせた警部は言う
怪盗シザンサスと言葉を交わしたと言う被害者男性は笑いながら、記者に語ってくれた。
「彼は彼のためでなく人のために盗む。なんとも面白い存在だよ」
因みに被害者男性は怪盗シザンサスを訴える気はないと言う。
アドニス新聞 一面より抜粋
「へぇ、知らなかった。盗みをするのは人のためだったとはな」
人が居ない『天使の灯』店内でヒラギはコーヒーを飲みながら毒を吐いていた。
対象は勿論、目の前にいるオーキッドである。
「勿論、人のためさ。可愛いレディが悲しむ顔は見たくないからね」
「この、女好きが」
嘲笑うかのように言い放つがオーキッドに効く訳もなく。
「おや、ヒラギ君はお嬢さん方が嫌いかい?いつも君のことを見て天使のようだと言ってくれているじゃないか。
美しいものを素直に愛でる事が出来ないパティシエは嫌だねぇ。そのうち恋人は果物だ、とでもいいだす気がするね。どうだい、図星だろう?」
「何、当たり前のことを。…俺は俺の作ったケーキを食べてくれる客がいればいいんでね。
美しかろうが醜かろうが、男だろうが女だろうが、美味しく食ってくれる奴なら俺は歓迎だ。勿論、客としてな」
言い切ったヒラギに「あら」と聞きなれた女性の声が響いた。
「……ヒラギさんってそんな性格だったのですね」
「おや、カルミア嬢。あぁ、貴女が来てくれたのに私の反応が遅れてしまったのはこのオーキッド一生の不覚……。
今日も一段と貴女の美しさは光り輝いているというのに。そう、それはまるで……」
「フルーツ・タルトレット≠二つ」
「……畏まりました」
少し後悔の伺える渋い顔をしたヒラギは厨房へと消える。
「二つ?今日こそ私と一緒にお茶をしてくれるのかい?」
「いいえ、彼女の分よ」
彼女の後ろにはもう一つの影。ひょこりと顔を出したのはフォセカ。
彼女は怪盗シザンサスに知っている限りをオーキッドたちに話に来たのだった。
警部補が実はシザンサスだったこと。
自分は気を失ってしまったこと。
起きた時にはもう既にモノは盗まれていたこと。
そして、彼女の本は燃やされてしまったこと
「でもね、おじいちゃん。すっごくすごく、楽しそうに笑っていたのよ」
「おじいさんは元気なの?」
カルミアが訊ねるとこくりフォセカは首を振った。
「今はね、遠くの国に旅行に行っているの。えっと……ずっとずっとずーっと遠い国!
昔、お世話になった人がいてね、その人にあいにいくんだって!!」
「ほぅ、それはいいね。人を訪ねる旅…か」
「うん、だからお土産のお話いっぱい、いっぱい約束したのよ!」
そう話すフォセカの顔はとても輝いていた。今は彼女がお姫様。
「大変お待たせ致しましたフルーツ・タルトレット≠ナ御座います」
どんな時だって、物語の終わりはいつも決まっている
笑顔でいつまでも幸せに暮らしましたとさ
めでたし、めでたし
貴女に笑顔が咲かないのなら、私が不安を盗んで差し上げましょう
Fin.
創作同好会部誌『PUNCS』の4号に寄稿した作品。一部修正いたしました
3号と同時発行で、凄い切羽詰まって書いた覚えがあります。そして今回読み直して大分「ぎゃぁぁぁ」と…なり、ました…
オーキッドはとても書きやすくて楽しいです。このシリーズは結構お気に入りなので、いつかまた書きたいですね
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