魔法王国『滅亡』より第一楽章 裏切りと思い 5


  先に地を蹴ったのはウルグラントだった。
  ばっと紫紺のマントが宙に靡きながらデュランダルめがけ剣を振り下ろす。
  デュランダルは難なくよけるとそのマントを突き刺すように腕を伸ばした。
  その剣は魔法盾によって阻まれる。盾の向こうに見えるのは憎みと怒りを宿した深い色の瞳。
  「お前さえいなければっ!」
  誰も死なずに済んだのだ。誰も苦しまなくて済んだのだ。
  全ては幸せだったのに。
  「戦いに熱くなるなんて貴方らしくない」
  「黙れ!」
  デュランダルは薄く微笑んだ。これは面白い事になってきている。
  闇と魂の深化。ウルグラントの周りの『陰』の気は段々と強くなっていく。
  本人は気付いていないかもしれないが彼の魔力が感情の高ぶりに反応し増幅されているのだ。
  隠された感情の下にある本当の強さ。
  秘められていたのは相棒を慈しむ言葉に出来ぬ想い。実に面白い、とデュランダルは呟く。
  ウルグラントならば自分を心から楽しませてくれるだろうか。
  「切り裂け、闇の魔道剣っ!」
  剣の波動に魔力を乗せて、ウルグラントは放つ。
  地面をもを巻き添えにして深い闇色の光はデュランダルを吹き飛ばした。土煙、剥き出しの大地。
  そんな上にウルグラントは立っていた。
  下ろした剣はまだ魔力を帯びている。腕には魔法盾。だがそれも空に解けるように消えた。
  睨む先には男。誰よりも憎い男。けほけほ、と咳き込む音でウルグラントは一度降ろした剣を再び構える。
  「強くなりましたね、ウルグ」
  デュランダルは儚げに微笑んでいた。腹部からは血。口元にも一線の深紅。輝く白髪も埃に汚れている。
  よっ、と立ち上がったデュランダルは横に飛んだ自らの剣を拾う。そして切れた口元に手をやった。
  「しかしですね……」
  そう呟いて口を拭う。傷は綺麗に消えていた。驚くウルグラントにデュランダルは告げる。
  「私は死なないのです。よって貴方に勝ち目はありませんよ」
  人の生命力の源である『陽』と『陰』。それすらをも超えた永遠の命を持つ完全な存在。
  それがデュランダルであった。
  遥か昔に与えられた永遠から彼は逃れる事はできない。最も逃れたいとも思わない。
  「面白いと思いましたが、些か飽きてしまいました」
  完全に彼が立ち上がったときにはその腹の傷も消えていた。まるで何事もなかったかのように。
  「先を通しなさい。ウルグラント。拒むならば……死んでください」
  「……マルが進ませないと言った道を進ませるわけがない。例え俺が死んだとしても通すものか」
  ウルグラントの答えに迷いはなかった。此処は戦場なのだ。仲間は今も死んでいっている。
  自分も命を懸けずにどうするというのか。滅ぶなら王国と共に。そう誓ったはずだ。
  マルジューク。
  一度だけ、小さく名を呼んだ。愛おしい相棒の名。届く事はない。
  彼女は幸せな夢と共に。
  「そうですか。残念です。では通させていただきますよ」
  きっとこれで最期だ。デュランダルの詠唱にウルグランドは再び大地を蹴る。
  紫紺が空を覆った。
  「開きなさい、異界の扉」
  「発動せよ!闇の刃っ」!!
  声音は同時。師弟は、師弟だった者達はどこで道を違えたのだろう。
 

  暫くして、舞い戻ってきたのは静寂。





   モドル