魔法王国『滅亡』より第一楽章 裏切りと思い 4
やっと見つけたマルジュークは鎧の下から血を流していた。目の前にはあの男。
「ウルグっ!どうして此処に!?」
マルジュークに心底驚いた声に問われるも答える気にならなかった。無言で相棒に近づき、傷を確かめる。
流れる血は止まらぬもののぱっと見た限り、マルジュークの受けた傷は深くはなさそうだ。
直接命に関わるものではないと判断し、ウルグラントはほっとする。
振り返ったウルグラントはデュランダルを睨む。
「デュランダルっ!マルは貴方の事を信じていたのに、その思いをここまで踏みにじるのか!」
滅多に感情を乱さぬウルグラントだが、このときばかりは違った。
既に剣を抜き、彼の周りには『陰』の魔力が術士の感情に呼応している。
デュランダルは一瞬意味が分からぬように首をかしげた後、直ぐに察したらしい。
みるみるその表情は先刻同様の笑みに変わっていく。
「ふふ、いや面白い事を言いますね」
湧いてくる感情を堪えられないのかデュランダルは口元に手を当てながら笑い続ける。
「何が面白い!」
「面白いに決まってるじゃないですか」
そう言うとデュランダルはすうっと笑みを消した。改めて感じる男の狂気は人間のものとは思えなかった。
「私は信じて欲しいなんて一度も言ったことありませんよ?」
力なく、どさっと。
ウルグラントの隣でマルジュークが崩れた。その瞳は見開かれているが光がない。
「マルっ!」
ウルグラントはマルジュークの体を支える。小さく何かを呟いているが聞き取る事は出来ない。
一瞬にして今まで積み上げてきたものが崩れた衝動に精神が耐えきれなくなったのか。
「……『深い眠り』」
ウルグラントは簡易魔法の一つを唱える。初歩の初歩。
現われた僅かな灯りと粒子に包まれたマルジュークはゆっくりと目を閉じ、静かな寝息を立てる。
これ以上、マルジュークの辛そうな姿を見たくなかった。
深い眠りは幸せな夢を見せるという。夢の中では幸せであって欲しい。
目が覚めたときも幸せであるといい。
ゆっくりとマルジュークを横たえ、ウルグラントは再びデュランダルと対峙した。
彼女のためにもこの男は倒さねば。
「普段からマルジュークを見てあげないとダメでしょう?あの子はすぐに暴走しますから」
今みたいにね、とデュランダルは続ける。呆れたような声音にウルグラントは堪えた声で呟いた。
「……お前はもうこの国の事もマルの事も喋るんじゃない」
この男がいなければ、マルジュークが傷付くことも無かった。
この男さえいなければ、魔法王国が混乱する事もなかった。
この男さえ、この男さえいなければ。
憎い。
何故、俺は気がつけなかった。
「その一言がすべてを汚すんだ、お前は!」
心に溜まったものを全て吐き出すかのようにウルグラントは叫んだ。ふわりとその魔力により髪が浮く。
「……お前を倒す。必ず」
「ふむ、少しは楽しませてくれそうですね」
デュランダルは僅かに口元を吊り上げた。
ウルグラントが放つ怒りは本物だ。なかなか此処までの怒気はお目にかかれない。
この男は何処まで楽しませてくれるのだろうか。デュランダルは僅かな期待を胸に。
「さぁ来なさい。ウルグラント」
まるで戦いの始まりを告げるかのように雷が落ちる音がした。
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