魔法王国『滅亡』より第一楽章 裏切りと思い 2
「 どうしてこうなってしまったのだろう。何がいけなかったのだろうか。
相棒であるウルグラントには「冷静になれ」と言われた。目の前の敵を倒す事が優先だ、と。
けれど今、マルジュークの前にいる敵は……。
「マルさん」
マルジュークは声を掛けられ、我に返る。その声音はまるで子供に言い聞かせるような優しいもの。
そんな優しさを見せるデュランダルを直視できなかった。
いつもと変わらぬ姿なのに歪んでしまった人など見たくなかったから。
「君は実に素晴らしい力と心をお持ちです」
落ち込むといつも自分に言葉を掛けてくれた。そのデュランダルの優しさに何度彼女は救われたことか。
そしてまた彼のために頑張ろうと思えた。信じてくれるのだから。喜んでくれるのだから。
「でも、それが必ず勝利に繋がるとは思わない事ですよ」
初めて彼に『陽』の魔術を教わったときはどれだけ嬉しかったか。
たった二人のうちの一人に自分は選ばれたのだと。ずっとこれでデュランダル様のお傍にいられると、素直に喜んだ。
そしてマルジュークは思い出した。あこがれが別な思いに代わるのにそう時間は掛からなかった事を。
目標であり、そして……。いくら考えたところで答えはひとつしか出ないのだ。
「……さぁ、どきなさい」
優しさを消し、底冷えしそうな声音でデュランダルは最終通告を告げた。
変わってしまったのならば。もう目標でもないならば。
「デュランダル様。私は何と言われようとも貴方をこの先に進める訳にはいきません!」
いっそこの手で消してしまおうではないか。
「進むならばこの私を倒していって下さい!」
いっそ彼の手で消えてしまおうではないか。
「……デュランダル様、お手合わせ願います」
貴方にもらったこの力を使い切り、散るのも幸福な事なのではと思う。
「……死にたいのですか、マルさん」
少し驚いたような声。聞いては駄目。きっと縋ってしまう。きっと泣いてしまう。だから、声を上げた。
「魔道騎士『マルジューク』、参りますっ!!」
「くっ……倒しても倒してもキリがない」
ウルグラントは立ちふさがる侵魚達を切り倒し、剣の露を掃った。
魔法王国を攻め入る謎の存在、侵魚。
歪んで言葉も話せず叫ぶだけとなってしまった彼等の元は麗しき人魚族だと言う。
謎の奇病によって冒された彼等はじわりじわりと混乱と陥った魔法王国に攻めて来た。
その数はとても捌ききれない程。何人もの仲間が彼等の攻撃に倒れ死んでいったのだ。
そんな中、ウルグラントはたった一人の相棒を探していた。
「マル、何処にいるんだ」
ウルグラントは『陰』の力を操る。それと対の存在として『陽』の力を使う存在がマルジュークであった。
二人は一人の聖騎士に見込まれ、技を教え込まれた。
聖騎士の名をデュランダル。
この事態…魔法王国を裏切るという大罪を犯した張本人だ。
尊敬の念は既にない。あるのはあの男を今まで師として敬っていた自分まで嫌になる程の憎悪。
マルジュークと二人で戦線を護っていた時、裏切った事を聞いた。風の噂であればよかったと思う。
目を見開き、戦う手が止まったマルジュークを見るのが辛かった。
彼女は「そんな、どうして!」とやり場のない感情を繰り返し叫んだ。
マルジュークだけでない。ウルグラントも聞きたかった。全ての兵士が聞きたかった。
彼女の秘めし心中の想いを知っていたから、ウルグラントは言ったのだ。
今は目の前の敵を、と。
冷静にならなければとウルグラントは思った。こんなときこそ自分がしっかりしなければいけない。
マルジュークは脆くて、とても壊れやすいから。
守らなければ。例え魔法王国が崩壊しようとも、彼女だけは守らなければ。
だが、自分の考えは甘かったのだと直ぐに気付かされる事になる。マルジュークを甘く見すぎていた。
ウルグラントの目を離した隙にマルジュークは忽然と消えたのだ。
何処にいるか。生きているのか、死んでいるのか。
何一つ分からぬ戦地でウルグラントは王宮へと向かった。
デュランダルの目的は王宮にある『書庫』である。恐らく彼女はデュランダルの元へと行ったのだ。
何故、と言う疑問を解きに。信じたくない真実を確かめに。
ふと顔をあげたウルグラントの視界の隅に眩い閃光が走った。瞬時に分かる。対極である『陽』の力。
「あっちか」
頼む、間に合ってくれ。
魔法王国の守護神であるファルカウ神に祈りながらウルグラントは歩を急がせる。
空は燃え盛る炎の色をしていた。
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